現状の中で、セラピストが求められる社会的ニーズを、あらゆる角度から的確に捉え、現状の法的規制の中においても、合法的に実施できる事業を、社会に認められるしっかりとした専門性と高い質が担保されたものとして、一定量以上の実績を積み上げていくことが、私たちに課せられた課題であると考えます。
リハビリテーションの知識や専門性を活かし起業する意義が、社会貢献であり、国民が求めるニーズに応えていく所に、第一義として存在することを忘れることなく活動することが重要であります。この認識の積み重ねこそが、セラピストの起業が社会に認められる活動となると考えます。
あらゆる事業モデルが、今後誕生する中でセラピストの経営する企業においては、高い理念とコンプライアンスが確保できることを目指すことがもっとも重要であると考えます。
起業する事で「儲ける」事はサービスの存続のためには絶対必要な事です。しかし、それが第一義では必ず短命な事業者となるでしょう。我々が地域に何を求められ、何を私達の専門性から届ける事が可能なのか真剣に自問自答し、その考え方が不動の価値をもつときにこそ起業の時と考えます。
介護保険制度が2000年に始まり、措置から契約に制度は変わった中で、国民は主体的に事業所を選択し、介護サービスを受けられるようになりました。3年ごとに改正される制度や地域における介護保険計画により、その状況も様変わりしてきています。
今年度の報酬改定の中では、通所事業所における大規模減算の見直し、通所介護における機能訓練加算の評価、短時間通所リハビリの制度化など、私達に関連するサービスに対しても、徐々に変化を見せています。次期の介護保険制度改正では、医療保険との同時改定も予測され、さらに変化のスピードは加速することが予測されます。
今後、平均在院日数が短縮化し、在宅ケアに移行するタイミングが早くなるだけでなく、在宅ケアを必要とするケースが急激に増大することが予測されます。
在宅ケアのフィールドにおいてセラピストが、「起業」という形で社会貢献できるチャンスは、広がりを見せると考えられるなかで、セラピストらしい事業展開とは何かを、いかに表出できるかが、今後の起業ビジョンには、重要なポイントになると考えます。
さらに、今後の社会保障費の膨張を考えた時に、予防という視点からの取り組みも、重要なサービスとなると考えられます。国民は、セラピストの専門性を取り入れた様々なチャレンジを求め、更に健康というニーズに対する我々の介入にも期待をいただいている事が既に起業しサービス提供を行う事業者の実績からも容易に理解することができます。
一方、一般高齢者や子供たちに向けた発達支援等、健康に視点を置いた自費でのサービス提供を実施した場合、法律に左右されない自由度の高いサービス提供が可能であり、利用者の多様なニーズに対して私達の専門性を活かしたサービス提供が可能性となります。自費サービスの提供手法については、様々な取り組みが展開されているのも事実で、保険に頼らない起業の形も、起業戦略には必要な方向性のひとつです。
次期同時改定に向け、訪問リハビリステーションの制度化に向けた、様々な取り組みがなされていますが、それがセラピストの起業の全てでないことも認識すべき点です。これが制度化されたとしても、安易に「起業」のカタチとしてとらえる事は危険であり、あくまで私達セラピストの強みをどのように地域ケアに活かせるかのひとつのステップでしかない事を認識する必要があります。
また、2015年には団塊の世代の方達が全て65歳以上になられ、私達に求められるニーズはより一層多様化するとともに、国民からはより効果的で質の高いサービスの提供が求められる事は間違いありません。
現在、セラピストの養成校は増加の一途をたどっています。急増する養成校とそれに伴うセラピストの増加は、需要と供給のバランスを逆転させ、このまま具体的な対策がなければ、今後、供給過多になることは言うまでもありません。
一方、地域社会全体で見たときに、セラピストが適切に配置されているとは言いがたく、マスメディアの報道等にも、セラピストが地域で不足しているとする記事は多数見られています。これは、セラピストに求められているフィールドが、従来の医療における急性期回復期医療機関だけではなく、維持期や介護保険サービス、そして予防や健康増進という幅広い分野で広がりを見せているという事からも、セラピストを地域が求める意味を理解することができます。このことからセラピストによる「起業」が、多くの地域ニーズを満たすひとつの方法として今後一層推進されるものと考えられています。我々の専門性に期待をいただき、サービス提供を待たれる地域住民が多くいらっしゃる事を受け止め、着実にそれに応える方法として、「起業」は必要な方法であり、新たな需要を生むチャンスでもあると考えます。
現在、わが国は世界がこれまでに経験したことが無いレベルの、少子高齢化社会を迎えようとしています。この様な状況の中、社会保障費の膨張と国民の高負担は避けられず、今後、医療においては急性期、回復期医療におけるより一層の在院日数の短縮化は避けようがない事として認識されています。
このことから現在、早期在宅復帰にむけた地域ケアの在り方に加速的な整備が求められています。一方、セラピストの養成は毎年2万人を超えるレベルに達し、その大部分が医療機関に所属しています。従来の医療機関に集中した活動のみでは、近々にセラピストの需要と供給のバランスは崩れることが予測されます。今後、医療介護連携の視点からも、セラピストは在宅生活者に向けた地域ケアの在り方を強く意識し行動していく必要があります。さらに近年の疾病予防や介護予防の推進に向けた領域にも専門職として視野をさらに広げて活動するべき事は言うまでもありません。そこで私達セラピストが、国民の健康とリハビリテーションにより一層強く貢献するために、その専門性を「起業」を通じて提供していく事が求められています。
私たち「NPO全国在宅リハビリテーションを考える会」は、わが国におけるセラピストの起業の意義と在り方について考え、我々ならではの地域貢献がどのようであるべきかの議論を重ねてまいりました。
今回、セラピストのための起業ガイドラインでは、セラピストの企業サービスが永続的に広く国民に支持される為に、セラピストが起業する際に必要な理念や基本的知識について述べさせていただきます。